香川大学医学部 耳鼻咽喉科・頭頸部外科

耳領域研究

研究内容

耳領域の臨床研究・基礎研究

(中耳疾患)

耳小骨多断面再構成 (multiplanar reconstruction:MPR)画像

真珠腫性中耳炎、慢性中耳炎、鼓膜穿孔、耳硬化症など、手術によって聞こえが良くなる可能性がある中耳の病気は、検査をして、患者本人充分説明・相談した上で、手術も積極的に行っています。当科では、放射線科との協力体制のもと、耳小骨という耳の中の音を伝える数ミリの骨を高分解能CTで撮影する方法(耳小骨多断面再構成画像:今までと撮り方は同じで、画像処理が違う)をいち早く取り入れ、手術をする前に耳の中の状態が詳細にわかるようになっています。

 

耳小骨多断面再構成 (multiplanar reconstruction:MPR)による耳小骨画像

耳手術用内視鏡を用いた耳科手術

従来、耳の手術は顕微鏡を用いて行われていましたが、1990年代より内視鏡が補助的に用いられるようになり、2000年代から顕微鏡を用いずに、内視鏡だけを用いて耳の手術を行う報告がなされています。

内視鏡を用いた手術は、顕微鏡だけを用いた手術に比べ傷が小さく、術後の痛みや、術後の回復時間も短く、QOLの改善につながることが大きなメリットですが、片手操作で手術を行うことや平面画像で立体感が得られないためという術者にとってのデメリットに加え、病気の状態によっては、顕微鏡を用いないと手術ができない場合があります。

どの手術方法が最適かは、中耳炎の種類や範囲、耳管機能、感染の有無などにより違ってきますので、耳CTや聴力検査、細菌検査などにより、最適な手術方法を選択しています。耳小骨多断面再構成画像を含めた耳CTにより、より正確かつ詳細に中耳炎の状態が把握でき、耳手術用内視鏡システム・手術用顕微鏡により、正確かつ繊細で低侵襲な手術を行なえるように目指しています。

 

(メニエール病)

難病であるメニエール病の治療法を開発することを目標に、内耳特に内リンパ嚢の機能を研究しています。内リンパ嚢は、その機能もよくわかっていませんでしたが、メニエール病に関係している可能性が示唆されていることから最近特に注目されています。我々の教室では設立当初より内リンパ嚢の研究をすすめており、パッチクランプ法、イオンイメージング法、共焦点レーザー顕微鏡などの最新技術を駆使して、その機能解明にむかって研究しています。

 

免疫組織染色

マウス内リンパ嚢の上皮細胞におけるProx1の発現

ラット内リンパ嚢におけるcystic fibrosis transmembrane conductance regulatorの発現

 

多断面再構成画像による前庭水管計測

メニエール病患者さんでは、内リンパ嚢の一部が存在する前庭水管(矢印)という部位の発育が悪いことが報告されています。当科では多断面再構成画像により得られたデータから前庭水管の容積を計算し、正常と比較してメニエール病患者さんの前庭水管の容積が小さいことを報告しました。

内耳圧の測定

内リンパ嚢はいろいろな機能が推定されていて、その一つに内リンパの圧調節があります。

内リンパ嚢電位を低下させるイソプロテレノールを投与することにより内リンパ圧が上昇し、内リンパ嚢を閉塞することによりイソプロテレノールを投与しても内リンパ圧が上昇しないことを発見しました。現在、いろいろな薬剤で測定を行っています。

メニエール病に対する減塩治療

メニエール病における減塩治療と利尿薬お有効性に関しては、1930年代以降、多くの報告があり、減塩治療は欧米では広く行われています。しかし、減塩治療は経験的に導入されており、減塩効果発現のメカニズムについては不明です。

当科では、減塩治療による治療効果や各種のホルモンの変化などを研究しています。

食塩制限ができた群は、食塩制限が不十分群と比較してめまい回数が減少する傾向があり、有意に聴力改善が認められた。

 

 

(vHIT:新しい三半規管機能検査)

三半規管機能検査として一般的に行われている温度刺激検査は、三半規管のうち一部しか評価できません。新しい三半規管機能検査であるvHIT(video-Head Impulse Test)は、低侵襲・短時間に半規管機能を評価し、現在も病態が不明である内耳性めまい患者や、今まで原因が不明として扱われてきためまい患者の半規管機能の評価を従来の検査とあわせて行うことで、病態解明に寄与することができると期待されています。vHITの有効性を評価し、症例を集めることで、病気のより正確な評価、新たなめまい疾患の評価方法を確立することを目指しています。

(新生児聴覚スクリーニング検査)

聴覚障がいの発生頻度は、出生1,000人に1人から2人と言われており、聴覚障がいに気づかない場合、耳からの情報に制約が生じるためコミュニケーションに支障をきたし、結果として、言語の発達が遅れ、社会性の発達に影響を及ぼします。しかし、新生児期に聴覚スクリーニング検査を受け、早期に難聴が発見され適切な支援が行われた場合には、聴覚障がいによる音声言語発達等への影響が最小限に抑えられ社会参加が容易となります。

これまで香川県では公費負担がなく、検査器具を持っていない医療機関があったため、出生時の80%程度しか検査を受けていませんでした。このため、幼児期になってから初めて難聴と診断される場合が少なからずありました。そこで、香川県、香川県産婦人科医会と連携して、検査環境の整備や無料化を提唱し、H29年4月より県内全市町村で検査が公費負担となり、無料で受けることが可能となっています。

当科は香川県で唯一の日本耳鼻咽喉科学会認定の新生児聴覚スクリーニング検査後の精密聴力検査機関として、難聴の早期発見及び治療を行っています。

また、香川こだま学園、香川県聾学校などの療育機関と連携して、難聴児の療育にも取り組んでいます。